Creepy Nutsの「よふかしのうた」は、夜という時間帯に込められた誘惑と自由、そしてそこに潜む危うさを描いた楽曲です。夜更かしをテーマにしながら、それは単なる夜遊びや不良行為にとどまらず、「夜」という時間の象徴的な意味――自己発見や青春の衝動、社会との摩擦の中でしか見出せない居場所を綴っています。
🌓 月光とブルーライトに照らされた“裏の顔”
よふかしのうた
照らしてってmoonlight
目を奪ってブルーライト
ネオンサインが呼ぶ表裏
ここで描かれるのは、夜の街の風景とそこに浮かび上がる“裏の顔”。昼間には隠れている衝動や感情が、夜の静けさの中であらわになる様子が、月明かりやスマホ・街のネオンの光を通して象徴的に描かれています。
🕛 「9時就寝」に反発した少年時代の夜への憧れ
ガキの頃から夜が好きだった
9時に寝るのは何か嫌だった
お前の事がもっと知りたかった
幼少期から夜に惹かれていた語り手。“夜”をまるで人格のある存在として「お前」と呼び、その奥深さに惹かれていく様子が描かれます。ルールに従うことへの反発心や、未知への興味が、この夜への愛着の原点です。
🍷 音楽・酒・煙草──夜が教えてくれた“大人の階段”
それからお前は音楽をくれた
女の裸も見せてくれた
飲んだ事ねぇ酒に口つけて
オトンのタバコくすね火を付けた
夜は知識や経験の“教師”でもあります。違法行為や逸脱すれすれの行動を通じて、主人公は“夜”という存在から、大人の世界を垣間見ていきます。社会的には否定されがちな経験も、彼にとっては大切な通過儀礼なのです。
🔥 忙しすぎる俺たちの夜
なんせ俺達の夜は忙しい
keep on dancin
さぁ鬼の居ぬ間に
俺達の夜は忙しい
ここで繰り返されるフレーズ「夜は忙しい」は、単なる過密スケジュールではなく、夜という時間にだけ開かれる「自分だけの舞台」への熱狂と没入を表します。“鬼の居ぬ間”という言い回しも、支配的な昼の秩序からの解放を意味しています。
☀️ 大人になった“今”でも抗えない夜の魔力
暗い部屋照らしてよブルーライト
認めたかないがお前のせいさ
起こさないでティーチャー
I’m a day dream believer
夜がもたらすものの中には、生活習慣の乱れや身体的疲弊も含まれています。しかし、それすらも夜のせいにして笑い飛ばすような、諦めにも似た愛情を持っています。“夜”とは、若さをむしばむ悪魔でもあり、心を慰める恋人でもあるのです。
🤝 社会不適合者たちの避難所としての夜
同じ周波数のムジナ
もれなく社会不適合者
だけどお前は決して誰も責めない
夜には「居場所のない人たち」が自然と集まる。学校や会社といった枠組みに収まりきらない彼らが、ありのままに存在できる場所が“夜”なのです。そして夜は、彼らをジャッジせず、優しく受け入れてくれる無口な存在。
🎧 “今日”を終わらせられず、“明日”を始められない葛藤
ずっと今日が終わらない
明日を始められない
この一節は、夜に生きる人間が抱える根本的な矛盾を鋭く突いています。「夜」に救われながらも、そこに居続けることが本当に良いのか分からない。時間の狭間で立ちすくむ、現代の若者のリアルな心情です。
🎤 総括|夜は、最も静かで、最も濃密な“居場所”
「よふかしのうた」は、Creepy Nutsらしいウィットとリズムに満ちたトラックでありながら、夜という時間帯の持つ哲学的・社会的意味を深く掘り下げた一曲です。
そこには、規律から外れることの快楽と痛み、自己との対話、そして“普通”になれない人たちへの静かな共感が詰まっています。
夜に惹かれ、夜に悩み、夜に育てられた全ての人へ。この曲は、そんな私たちの“子守唄”なのかもしれません。