Creepy Nutsの「土産話」は、これまでの彼らの歩みをまるごと凝縮した“自伝的楽曲”です。ふたりの過去・現在・未来を、感傷とユーモアを交えながら描いたこの楽曲は、単なる成功譚ではなく、泥臭く、汗臭く、でもどこか愛おしい「下積みの記憶」を鮮やかに照らし出します。
■ 新大久保の夜から始まった“普通の物語”
「なぁ相方、大事になったな わりと大事になったな」
この冒頭の一節からわかるように、曲は彼らがまだ世に出る前の「何気ない夜」から始まります。ゲーセン前の深夜、新大久保の路上、上板橋のワンルーム。誰にも知られないまま夢を語り合っていた日々。大晦日に食べるドミノピザ、武道館のDVDを観ながらの“もしも話”……これらの描写は、派手さこそないものの、確実に未来に繋がっていたことを聴く者に実感させます。
■ 「もしも」は現実になった。でも、実感が湧かない
彼らがステージで成功を収めても、内面では「まだ実家暮らしの気分」「雨漏りと壁ドンで目が覚めたくない」と語る。これはまさに“夢が叶った瞬間の戸惑い”をリアルに描いたパート。人は目標に到達しても、心がその変化についていけないことがある。Creepy Nutsの二人もまた、あの日のベンチの感覚を抱えながらステージに立っているのです。
■ ストーリーは“土産話”に変わる
曲のサビでは、こう繰り返されます:
振り返れば
イカれた土産話が溢れ出る山のように
ここでの「土産話」とは、彼らがこれまでの活動の中で手にしてきた“語るに値するすべて”のこと。ガラガラのワンマンライブ、野外のフェス、異種格闘のようなバトル、MCバトルでの台頭、リキッドルームやZepp Tokyoの成功——それらは全て、苦くて熱い、まさに「旅の証」としての土産話。
■ 「年末空けとくわ」──夢は現実に
なぁ相方、じゃこの先は?
ホールにアリーナ? またデカい山
ガキ使にピザ? カウントダウン紅白
まぁ今年も年末空けとくわ…
このラストの「年末空けとくわ」という一言には、かつて夢物語だった“紅白出場”を現実のものとした、2024年のNHK紅白歌合戦初出場という実績が重なります。
楽曲内で軽やかに語られる未来は、実際に彼らが手にした現在の証であり、今後さらに大きなステージへと進んでいく決意表明でもあります。
■ 終わりに
「土産話」は、アーティスト自身が“自分の物語”を肯定し、共有し、そして仲間と笑い合うことの力強さを教えてくれる曲です。どんな苦労も、後で「笑える話」に変えられる。そんな前向きなエネルギーに満ちたこの楽曲は、リスナーにもきっと、自分だけの“土産話”を持ち帰る勇気を与えてくれるでしょう。
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