Creepy Nuts「Running Wheel」〜タイトルに込められた意味と、走り続ける2人の現在地〜

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書き下ろしの背景

2026年8月19日に配信リリースされた「Running Wheel」は、Honda「N-BOX CUSTOM」の新CMのために書き下ろされた楽曲だ。タイアップ曲というと”提供された題材に寄せて作る”印象を持たれがちだが、この曲はむしろ逆で、Creepy Nuts自身のここ数年のキャリアそのものをテーマに据えている点が特徴的だ。

CMタイアップというフォーマットは本来、企業側のブランドイメージに沿って楽曲の方向性がある程度規定されるものだが、今回はアーティスト側の”歩み”が主題になっている点が興味深い。N-BOXという国民的な軽自動車のCM曲でありながら、内容としては極めてパーソナルなキャリアの軌跡を描いているというギャップも、この曲を語る上での面白いポイントだと言える。

サウンド面では、DJ松永が海外で人気を集める「Phonk」というジャンルに接近したアグレッシブなトラックを制作し、そこにR-指定の高速ラップが乗る構成になっている。Phonkはロシア発祥ともいわれるベースミュージックの一種で、低音の効いたビートと歪んだサンプリングが特徴のジャンルだ。近年は世界的なインターネットカルチャーの中で再評価が進んでおり、DJ松永がこの潮流に反応して自身のトラックメイキングに取り入れたこと自体、Creepy Nutsの音楽的な感度の高さを示すエピソードでもある。これまでの楽曲とは一線を画す、攻撃的でスピード感のある音像に仕上がっているのも今作の見どころだ。

タイトル「Running Wheel」に込められた意味

「Running Wheel」は直訳すれば「回し車」。ハムスターなどが延々と走り続けるあの装置のことだ。一見すると「同じ場所をぐるぐる回るだけで前に進まない」というネガティブなイメージを想起させる言葉だが、この曲ではむしろ逆の意味で使われている。

止まることなく走り続ける、前進し続けるというニュアンスを込めたタイトルだと考えられ、実際に楽曲は「絶え間ない進化」にインスパイアされたと語られている。アンダーグラウンドのシーンから国際的なフェスのステージに至るまで、2人がどのように歩みを進めてきたかを綴った内容になっているという。

回し車というモチーフの面白さは、「走っても走っても同じ場所にいるように見える」という外から見た印象と、「本人にとっては確実に前に進んでいる実感がある」という内側の感覚のズレを表現できる点にある。今作のタイトルは、この”見た目と実感のギャップ”そのものを逆手にとって、自分たちの歩みを肯定する言葉として再定義したとも読み取れる。

外野への眼差しという、もう一つの軸

今作のリリックで印象的なのは、自分たちの歩みを誇るだけでなく、その歩みに対して外側から口を出す存在への眼差しが同居している点だ。何も知らずに口を挟んでくる周囲の声を意に介さない、という趣旨の一節があり、そこには「口だけを動かして、その場から一歩も動いていない側」と「実際に前人未到の道を走り抜けてきた自分たち」という対比構造が浮かび上がる。

つまり「Running Wheel」というタイトルは、単に「走り続ける自分たち」を指すだけでなく、その場に留まったまま評論するだけの外野を暗に対置させる、二重の意味を持ったタイトルとして読み解くことができる。実際に回し車を回し続けているのは自分たちなのに、外野からは「同じ場所で足踏みしているだけ」に見えてしまう――そのすれ違いへの苛立ちと、それでも構わず走り続けるという意志の両方が、このタイトル一語に凝縮されているとも言えそうだ。

直近のキャリアが色濃く反映された一曲

Creepy Nutsはこの1年で、Coachellaのゴビステージでのクロージングや、The Weekndのアジアツアーへの帯同、楽曲のRIAAゴールド認定など、国内アーティストとしては異例のマイルストーンを次々と達成してきた。今作はそうした直近の経験を歌詞に落とし込みながら、これまでにない音楽的方向性を切り開いた楽曲だと本人たちも語っている。

こうした海外での実績は、単なる「話題性」以上の意味を持つ。日本語ラップというジャンル自体が海外でどう受け止められるかという文脈において、Creepy Nutsの活躍はある種のケーススタディにもなっており、今作の歌詞にはそうした背景を背負ったうえでの当事者としての言葉が滲んでいる。

これまでの楽曲、たとえば「のびしろ」や「かつて天才だった俺たちへ」のような、内省的・自己受容的なトーンの作品が多かったことを踏まえると、「Running Wheel」はかなりストレートに自分たちの実績を誇示する、珍しい方向性の楽曲だと言える。過去の楽曲群が”まだ何者でもない自分”や”評価されるかどうかわからない不安”と向き合うものだったのに対し、今作は”すでに結果を出した自分たち”を起点に語られている点で、明確なフェーズの変化を感じさせる。しかしそれは単なる自慢ではなく、これだけの結果を出してもなお立ち止まらず走り続けるという意志表明でもあるのだろう。

まとめ

「Running Wheel」というタイトルには、

  • 走り続けることをやめない、前進し続ける自分たちの姿
  • その場から動かず評論するだけの外野との対比
  • 見た目には同じ場所にいるようでも、確実に前進しているという実感の表明

という複数の意味が重なり合っている。Honda「N-BOX CUSTOM」というタイアップの枠組みを超えて、Creepy Nutsの現在地とこれからの走りを凝縮した一曲として、今後の展開にも注目したい。

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